NYレポート(2002年9月30日):
<ベネフィットコンサート> ニューヨーク・レポート / 霧生ナブ子

 私は先学期からクィーンズ大学の大学院でジャズのプログラムを取り始めている。今学期の月曜は若手アルトサックス奏者、アントニオ・ハートによるインプロビゼイションのクラスである。ドイツからの留学生が増えたので時々クラス内で飛び交うドイツ語とピアノの生徒が奏でる音色がヨーロピアンな雰囲気をかもし出している。生徒の雰囲気とは逆にアントニオ先生の語り口調は黒人独特の熱いリズムがあり「僕達は音楽の上において家族なんだ!」と大きなジェスチャーで話す姿はどことなくマルコムXに似ていて何だか人種差別の政治運動のミーティングにでも参加している錯覚にとらわれてしまう。アントニオが今夜行われるチャーリー・パーカー組合主催の「ベネフィットコンサート」に生徒は無料で入場出来るように手配しておいたので必ず行くようにとの事だった。ベネフィットとは「利益を受ける」という意味だが、このコンサートの主旨は「ドラッグによって壊された家庭の家族、妻や子供達を助ける為の寄付金集め」で、たくさんのグレートミュージシャンがほとんどただ同然で演奏し豪華なディナー付きのパーティー形式で行われた。学生や一般客用に2階席があり私達クイーンズ大学の生徒だけでなくニュースクール等のジャズプログラムのある大学の学生もたくさん来ていた。

 場所はマンハッタンのミッドタウンに位置するマジソンスクエアガーデンのすぐ横「マンハッタンセンター」で行われた。クラスが終わってからクラスメートが運転する車でかけつけた私達は2階席の右側6列目に良さそうな席を見つけて座った。
 最初のバンドはウイナード・ハーパー(ドラムス)のグループ。ベーシストは日本から知っている塩田君だった。最近ウイナードのグループを中心に活躍している。ハイチ出身のウイナードらしくアフリカンビートで始り、曲をとぎらす事無くスイングの曲に変わっていった。ほとんどがオリジナルの曲でアッと言う間に終わった。2つ目のグループはケニー・バロン(ピアノ)のトリオ。ファンキーなイントロからコール・ポーターの「ラブフォーセール」に移っていった。とてもクールででも躍動感のある演奏だった。2曲目はジョン・ファディス(トランペット)と白人のシンガー(ファディスの奥様らしい)が入っての「ゼアウィルネバービーアナザーユー」だった。このようなショーケース形式(沢山のクループが短く一度に出演するコンサートやフェスティバル)のライブではいろいろなグループの個性を比較しながら見る事が出来るので大変面白い。

 三番目は本日の目玉、ヒース・ブラザーズ!この日このイベントの主催者から彼らに賞が送られた。ヒース・ブラザーズとは、パーシー・ヒース(ベース)、ジミー・ヒース(サックス)、トゥーティー・ヒース(ドラムス)の三兄弟の事で、ジャズ界において物凄い影響を与えている3人物である。「三人ともが現在生きている数少ない、チャーリー・パーカー(サックス)と演奏した事のあるミュージシャン」と紹介されていた。お祝いにマックス・ローチ(ドラムス)(彼もパーカーと演奏していた)も駆けつけ観客から大きな拍手が沸き起こっていた。1曲目はパーシー・ヒースをメインに小さなベース(チェロ?)による「ヤードバードスイート」で79歳とは思えない力強く活き活きとしたソロを聴かせていた。2曲目はチャーリー・パーカーお馴染みのナンバー「コンファメイション」で、さすがは「リトル・バード(パーカーのニックネーム)」と呼ばれるだけある、ジミー・ヒースのソロは本物のビーバップ
以外のナニモノでもなかった。実はつい先日、クィーンズ大学の小ホールを借りてジミー・ヒースと霧生トシ子、太田寛二を含め家族でライブ・レコーディングセッションをしたばかりだった。ジミー・ヒースはいわゆる有名ミュージシャンが持つ高飛車な態度など何処にもなく、音楽的だけでなく人間的にも素晴らしい人物だった。そのような私個人的な経験と共にこのマンハッタンセンターの大きな舞台上に立っているジミー・ヒースを見ていたら感無量であった。

 大御所ミュージシャンの後は、今若手ナンバーワンと言われるトランペットプレイヤー、ロイ・ハーグローブの登場であった。彼の演奏はいつも叙情的で聴き手の心を見事に捕らえる。またパワフルで情熱的なインプロビゼイションでグルーブ(スウィング)する。リズムセクションもロニー・マテュー(ピアノ)、ルーファス・リード(ベース)、ジミー・コブ(ドラムス)とベテランミュージシャンに囲まれ余裕のある演奏だった。次のグループはバッキー・ピツァレリーによるギタートリオ。ドラムのエディ・ラークはスイング時代から活躍したドラマーでロイ・エルドリッチ(トランペット)等と演奏していた経験のある、いわゆる「オールドスクールジャズミュージシャン」である。「インナメロートーン」はさすがに渋い味で独特のスィング感を楽しめた。

 この夜二人目のメインゲスト、クラーク・テリー(トランペット)が数名のホーンプレイヤーに囲まれながら登場した。物凄い早いテンポのブルース(チャーリー・パーカーの曲)をジミー・オーエン(トランペット)、チャールス・デイビス(テナーサックス)、ビル・サクストン(テナーサックス)、デイブ・グラッサー(アルトサックス)、もう1名のトランペットそしてクラーク・テリー全員ユニゾンでテーマを取り、最初のソロはクラーク・テリー自ら熱く何コーラスも吹きまくった。みんなそれぞれがソロを取っている間、クラーク・テリーを中心にリフでソリストをバックアップしスィング感がどんどん増していった。本当にその場でじっくり作り上げられているレベルの高いジャムが目の前で繰り広げられていた。クラーク・テリーは本物の伝統を次の世代へ伝えているミュージシャン。音だけでなく存在自体に何とも言えない説得力を感じるアーティストであった。

 ここで先日亡くなった偉大なベーシスト、レイ・ブラウンに捧げる・・・として舞台の上に6人のベーシストが立ち並び一緒に演奏した。アール・メイ、ポール・ウエス、タッド・クールマン、ボブ・クラウンショー、ルーファス・リードの6人が交互にソロ取り合ってアンサンブルとなった。なかなか面白い光景ではあったが、誰かがベースでウォーキングしている間に誰かがソロを取るといった形式だったので誰のサウンドなのか聴き分けるのが難しかった。最後のグループはスライド・ハンプトン(トロンボーン)をリーダーに3人のトロンボーン奏者によるアンサンブルでベニー・パウエル、スティーブ・タレが加わった。特にスティーブとベニーはタイプが違うのでソロも比較出来て楽しめた。スライド・ハンプトンの音色は甘くメローでソロの掛け合いでは演奏に力が入りエキサイトしていた。

 こんなに沢山のミュージシャンを1晩で聴く事が出来るなんてやはりニューヨークならではだとつくづく感じた。そしてこの素晴らしいジャズコンサートがドラッグの犠牲者達を助けるために行われているという事、「ベネフィットコンサート」の意味をもう一度深く考えさせられた夜になった。